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野球一筋から庭師へ――祖父の一言が導いた新たな道

2025.06.07

Contents

株式会社帝樹園 庭正 代表取締役 長橋 正宇さん(三条市)

新潟県三条市で造園業を営む「株式会社帝樹園 庭正(にわまさ)」。代表を務めるのは長橋正宇さん。少年時代はプロ野球選手を目指し、人生の多くを野球に捧げてきました。そんな彼が庭師として歩み出すきっかけとなったのは、祖父の何気ない一言。数々の困難を乗り越え、今では全国コンテストで金賞を受賞するまでに至った、その道のりを伺いました。

野球漬けの少年時代──夢はプロ野球選手

「学校は野球をやりに行っていたようなものでした」
中学・高校と野球一筋。プロを目指し、全力で打ち込む日々を送っていた長橋さん。しかし怪我に泣き、大学進学も家庭の事情から断念。社会人野球に一度は踏み出すも、病気や家庭の確執に悩まされ、精神的にも限界を迎えます。
「仕事は楽しかったんですが、気づいたら20キロも痩せていて。病院でうつ病と診断されました」
それでも野球への思いは捨てきれず、独立リーグのトライアウトに挑戦。不合格だったものの、スポーツ専門学校から声がかかり、もう一度夢に挑戦。クラブチームでの活動や土木作業の仕事を続けながら、野球と仕事を両立させました。

「うちの孫がやります」──祖父の一言で庭師の道へ

人生の方向性に迷っていた22歳の時、転機が訪れます。入院中の祖父が、お見舞いに訪れた人々に「これからはうちの孫が庭の仕事をやります」と言って回っていたのです。
「最初は誰のことかと思ったら、まさか自分だったんですよ」
高校時代、祖父の庭仕事を手伝っていた経験がわずかにありました。その小さな経験と祖父の期待を胸に、23歳で庭師としてゼロからのスタート。市内の造園会社で5年間修行しながら、休日は祖父の手伝いをこなし、26歳まで野球もやる日々が続きました。

ひとりで創業、3年目で全国コンテスト銅賞受賞

独立から10年経ちましたが、創業当初はお客様5名からのスタートでした。最初の3年間はほぼ一人で現場を回し、仕事も営業もすべて自身で行ってきました。
そんな中、あるお客様から「好きなように作ってくれていいよ」と任された庭を、思いきってコンテストに応募。全国の施工例コンテストで初の銅賞を受賞します。
「受賞後は電話が鳴りやまなくて。携帯が壊れてしまったほどでした」
嬉しさと同時に、対応しきれず迷惑をかけてしまったことへの反省も。仕事の多忙さに心も体も限界を迎え、当時の記憶が一部抜け落ちてしまうほどの経験となりました。


思いを形に──金賞受賞、そして法人化へ

その後、銅賞を受賞したお客様から「今度は別の庭をお願いしたい」と声がかかります。今度のテーマは「亡き奥様との旅の思い出を庭に表現すること」。図面通りにいかない難しさの中、試行錯誤の末に完成させた庭が、全国コンテスト金賞を受賞します。
「これが法人化のタイミングと重なりました。まさに節目だったと思います」
以前の経験から、客単価や業務量の調整も行い、「安く引き受けすぎていた」自身の考えもお客様の助言で見直しました。
「『ちゃんと儲からないとダメだよ』って言ってもらったんです。利益を出すのは悪いことじゃない、って教わりました」
経営者としての意識も変わり、現在は価格設定を見直しながら、お客様との信頼関係を何より大切にしています。


「庭」は人の思いを映す場所

お客様との会話から生まれる庭には、それぞれの物語があります。ご家族の記憶、大切な人との思い出、心の癒し。
「僕は“庭”を通して、お客様の心の奥にある思いを形にしたいんです」
長橋さんの庭づくりは、単なる造園ではありません。ひとつひとつに丁寧に向き合い、その人にとって特別な空間を創り出すこと。その姿勢が、受賞という形となって評価され、多くの人に愛される理由となっています。

比較的短期間で受賞を重ねられた理由は?

── 比較的短期間で賞を獲られていますが、なぜできたと思いますか?

まずは、お客様に恵まれていたこと。そして一緒に協力してくれる人たちに恵まれていたというのが大きいですね。正直な話をすると、修行時代には「庭の作り方」を誰かにしっかり教わったことはなかったんです。親方はいましたが、主に剪定や刈り込みが中心で、庭づくりの技法に関しては、祖父の感性を頼りにするしかありませんでした。
「いいか、ここにこう石があるだろう?」と、最初は何を言ってるのかわからなかったんです。でも、それを自分なりに解釈し、試行錯誤しながら形にしてきた。その中で、お客様のセンスにも助けられました。「もう少しここをこうしたら?」と、細かなやりとりをしながら一緒に作り上げていったという感じですね。
20代の頃は、まだまだ若手で信頼を得るのも難しかったのですが、お客様の方から「ここはこうしてほしい」と言われることもありました。でも、だんだんと仕上がっていく庭を見て、最終的には任せてもらえるようになっていきました。そうした積み重ねが、早い段階での受賞につながったのかもしれません。
新潟の土地柄も大きいです。土地に余裕があるのでお庭の需要があり、燕三条は経営者が多いため、ある程度予算にゆとりがあるお客様が多い。そういった地域性にも支えられたと思います。
最初に受賞した金賞は「坪庭」だったのですが、小さな空間をいかに広く見せるかという工夫にこだわりました。遠近法や曲線美を活かしながら、庭づくりとは一見関係ないような分野からもヒントを得ています。たとえば「なぜ男性は女性の曲線に惹かれるのか」という話から、比率の美しさを学び、それを庭のデザインに落とし込んでみたり。
自分は伝統的な日本庭園の技法を座学で深く学んできたわけではなかったので、逆に自由な発想ができたのかもしれません。「何百年も前に作られた庭をなぞっているだけでは、新しいものは生まれない」という考えがあったんです。
遊び心も大切にしていました。「こうしたら面白いんじゃないか?」と実験的な発想で取り入れてみる。そんな僕のスタイルを面白がってくれるお客様がいたことが、結果的に受賞へとつながったのだと思います。

「庭づくりって、実は人生を豊かにする仕事なんです」

「自分が積んでいるのは、ただのレンガじゃない。これは“大聖堂”をつくってるんだ。」
そんな話、聞いたことありますか?
この有名な“レンガ積み職人の話”が、ある庭師の心に深く刺さっているそうです。ただの作業と感じるか、それとも志を持って「人生をつくる」仕事とするか。同じ作業でも、意味の捉え方ひとつで、まったく違うものになる。
同じレンガを積む仕事でも、「ただ積んでるだけ」と感じる人もいれば、「高所で危険な仕事だけど、単価がいいからやってる」と感じる人もいる。そしてある人は、「自分は大聖堂をつくっている」と誇りを持って取り組んでいる。
実はこれ、庭づくりの現場でも同じことが言えるんです。

「お客様の“本当の想い”を見つけにいく」

庭づくりは、ただ木や石を並べるだけではありません。
「お客様は“こういう雰囲気がいい”って言ってくれるんです。でも、会話のなかで“本当に求めてるもの”って、別にあるんじゃないかって思うことがある。」
ヒアリングを重ねる中で、お客様の深層的な願いや、言葉にならない感覚をすくい取る。
そして、思い切って別の提案をしたとき、それが“ピタリ”とハマる瞬間があるという。
「これだよ、私の求めてた庭って」
そんな言葉をもらえたときの達成感は、どんな苦労も吹き飛ばす。
それがピタッとハマったときの感動は格別だと言います。

「昔ながらの技法×今のセンス」が面白い

現場では、時に伝統的な技法を大切にしながらも、新しい感覚や科学的な視点も取り入れていくことがあるそうです。
「“温故知新”って言葉があるけれど、まさにそれ。昔ながらの美しさに、今のエッセンスを加えていく。それが今の庭づくりの面白さです。」
とはいえ、現場作業はハード。
「夏は日差し、冬は雪、足元はぬかるんで……毎日体はクタクタになります。でも、完成した庭を見たお客様が『ありがとう』って笑ってくれたとき、“ああ、やってよかった”って思えるんです。」

「実際に“庭”を体験してもらいたい」──新社屋とモデルガーデンの挑戦

そんな想いから誕生したのが、新しく建てた社屋と、そこに併設されたモデルガーデン。
「創業当時から、“いつかモデルガーデンをつくりたい”と思ってたんです。実際に見て、触れて、『こういう庭っていいな』って体験してもらえたら嬉しいなって。」
芝生の広場やタイルテラス、スライダーまで設けられた空間は、少し高級感を意識しながらも、誰でも気軽に立ち寄れるつくりになっています。
さらに、働き方の変化にも対応。社屋内にはリモートワーク向けのワークスペースを用意し、月額会費やドロップインで利用可能な仕組みにしています。

「庭って“体験”の場所でもある」

長橋さんの挑戦は、モデルガーデンの“見せる”だけにとどまりません。これからは「庭で過ごす時間」を軸にした新しい活動を展開予定です。
たとえば──

  • フォトウェディングの会場としてのレンタル
  • 観葉植物を使ったアートワークショップ
  • エディブルフラワーを使った料理体験
  • 庭のブルーベリーを摘んでジャムづくり
  • ピザ窯での“庭ピザ”体験 など

「ピザ窯を売りたいんじゃなくて、庭でピザを焼くという“特別な時間”を体験してほしいんです。」
そして今注目しているのが「ガーデンセラピー」。
「五感で自然を感じながら過ごす庭の時間が、ストレスを和らげてくれる。そういう空間をもっと届けたいし、庭の可能性を広げていきたいと思ってます。」

30歳、人生最大の絶望——「末期ガンです」

実は長橋さんは今のように夢を語れるようになるまで、何度も“どん底”を経験しています。
30歳のときに受けた人間ドックで、まさかの「肺に影がある、末期です」と宣告され、半年間ガンセンターに通うことに。
「会社を法人化した直後だったし、“もう終わった”って本気で思いました。」
ですが、その診断は誤診だったと後に判明。ガンではないと告げられたのは、奇しくも母の誕生日。
絶望からの回帰で全てが晴れやかな気持ちになりました。


社屋の建築中、またしても逆境が…

新社屋を建てるタイミングでも、予期せぬ苦労が続きました。
物価高騰の影響で、建築費が2割以上アップ。「これ、もうお金ゼロになるな…」と思ったことも。
「ギリギリのところで売上が入って、次の現場が始まって…その繰り返し。でも、“なんとかなる”んです。」


夢は「ハリウッドスターの庭をつくる」

長橋さんには、大きな夢があります。それは、ハリウッドスターの自宅の庭をつくること。
また、世界的な園芸展「チェルシーフラワーショー」にもいつか出場し、賞を取りたいという野望も。
参加費だけで3,000万円というハードルがあるものの、「挑戦することを諦めたくない」と語ります。
「でも、誰でも来られる場所は守っていきたい。芸能人御用達ってなると敷居が高くなるでしょ?
でも、ここは“みんなの場所”でいたい。」
大きな夢と、地元への想い。どちらも大切にして、今日も庭をつくり続けています。
代表長橋正宇様のインタビュー


「庭は、人生に“余白”をつくる場所」

ただ目で楽しむだけじゃない。
庭は、五感で味わい、心を休め、誰かと過ごし、人生に“ゆとり”をくれる場所。

従業員 現在募集中
男女不問
6カ月研修期間 18万円~
詳しくはWEBからお問合せください。
スタッフインタビューはこちらから


株式会社帝樹園 庭正のホームページはこちらから
https://teijuen-niwamasa.com/

noteの記事PROJECT23はこちらから!

CURATOR /

サンクチュアリ株式会社代表を勤めている松岡暢彦です。2022年に三条市に住所を移しました。 三条市ではアパートや戸建てをアップサイクルして様々な方が三条市で暮らせる、楽しめるよう活動しております。 ・旅行者が短期利用できる民家の開発「燕三条LocalStayKYU」 ・一人暮らしができるアパート運営「サンクチュアリ新光」 ・燕三条の企業を取材し、ホームページには無い情報を引き出して記事にします。「project23」 ・時短で働けるエアコン清掃「AIR WASH!」 サンポストでは取材した企業や働くママさん、飲食店のご紹介などを記事にします。 どうぞよろしくお願い致します!

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